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唯一無二の混沌(こんとん)と調和の世界を見よ!―「魔夜峰央原画展」
2019年9・10月号
漫画・映画
2019年8月30日
漫画hiroba
漫画と北九州
北九州市漫画ミュージアム
学芸員 石井茜

「パタリロ!」より「墓に咲くバラ」前編トビラ (『花とゆめ』1979年8月号)
まずは左上の絵をご覧ください。異世界に誘うような漆黒の背景に、左は妖艶な美青年、右はコミカルなキャラクターと妖怪たち。額縁状に美しく装飾されたコマたちは、この絵の中に複数の場面、複数の時間がコラージュされていることを示します。少女マンガ史上最多の単行本101巻を数え、現在も連載が続く「パタリロ!」2話目のトビラです。本来は互いに相反するような要素を1枚の絵として見事に調和させる、そこに作者である魔夜峰央(まやみねお)の手腕を感じさせます。今回は、当館で9月21日から開催する「魔夜峰央原画展」に関連してお話しさせていただきます。

「ラシャーヌ!」より 「マドンナの涙」トビラ (『花とゆめ』1978年増刊夏の号)
魔夜は高校生の時に『別冊マーガレット』に投稿を始め、1973年、20歳の時に「見知らぬ訪問者」という作品で『デラックスマーガレット』秋の号(集英社)にてプロデビューします。76年「やさしい悪魔」を『花とゆめ』大増刊(白泉社)に発表。以降、『花とゆめ』や『LaLa』で怪奇マンガを中心に活躍し始めます。元々妖怪や悪魔が好きだったということ、そして「人とは違うものが描きたい」という思いでの選択でした。そして78年、のちの代表作となる「ラシャーヌ!」「パタリロ!」を発表。ギャグ作家に転身し、その人気は確固たるものになりました。
「転身」とは言っても、それまでの作風を一変させたわけではありません。例えば「パタリロ!」は、10歳にして一国の王である主人公・パタリロが巻き起こす大騒動をコミカルに描く一方で、得意とする怪奇をテーマにしたお話をはじめ、シリアスなドラマが展開される回、SFやミステリー仕立ての回などがあり、一つのジャンルで切り分けるのが困難な作品になっています。他にもアクションあり、パロディーあり、少年愛あり、美を描けば醜も描くという、作者が言うところの「ごった煮の闇鍋」のような状態が「パタリロ!」の特徴であり、面白さなのです。これは魔夜作品全体に共通するもので、作家の唯一無二のオリジナリティーと言えるでしょう。つまり冒頭でご紹介した、さまざまな要素が集約された1枚のイラストが、魔夜作品の魅力を存分に語っているのです。
今回当館で開催する企画展は、魔夜峰央のデビュー45周年を記念して、2018年に明治大学米沢嘉博記念図書館で開催された展覧会のパワーアップバージョンとなります。刊行された関連書籍は300冊を超える作家のこれまでを、美麗な原画とともに振り返ります。
深い闇や艶やかな夜が想起される印象的なベタ(黒い塗りつぶし部分)、均一な線で隙間なく描かれる華麗な装飾に背景……これらが組み合わさった1枚の原稿が織りなす空気もまた、唯一のものです。その美しさと迫力は、じかに見ることでより一層感じられます。
2016年・2018年に舞台化、19年に実写映画が公開された「パタリロ!」。同じく19年に公開された実写映画「翔(と)んで埼玉」は全国で大きな話題を呼ぶなど、新しい世界が広がり続ける魔夜峰央作品の原点を、ぜひ会場でご覧ください。
Ⓒ魔夜峰央/白泉社
Information
「パタリロ!」100巻達成記念 魔夜峰央原画展
【開催期間】
9月21日(土)~11月10日(日)
【会場】
北九州市漫画ミュージアム企画展示室(あるあるCity5F)
【開館時間】
午前11時~午後7時(入館は午後6時30分まで)
【休館日】
毎週火曜日(ただし10月22日は開館、翌23日(水)が休館となります)
【入館料】
一般 900円
中高生 400円
小学生 200円
※小学生未満無料
※詳しくは北九州市漫画ミュージアムのホームページをご覧ください
http://www.ktqmm.jp/
【お問合せ】
北九州市漫画ミュージアム
093(512)5077
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