図1 福岡県京都郡苅田町石塚山古墳から出土した三角縁神獣鏡(左)とその拓本(右)(「豊前 石塚山古墳」1996年より転載)

自然史・歴史・文化財

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究極の記録保存はこれ!

2017.3月号

埋蔵文化財hiroba
遺跡からのメッセージ 
(公財)北九州市芸術文化振興財団
埋蔵文化財調査室 室長 佐藤浩司

 

 カメラやビデオがなかった時代、人々はどのようにしてモノを記録してきたのでしょうか。
 もちろん、文字でモノの状態や様子を表現できます。実測図を作成することも可能です。絵心ある人は絵画やスケッチ、デッサンで風景や静物を描くこともできますが、主観を入れず忠実に大きさや文様を再現できるのは拓本(たくほん)をおいて他にありません。簡便な方法は誰もが幼いころに経験した十円玉に薄紙をかぶせて鉛筆でこする「乾拓法(かんたくほう)」です。
 一方、釣り道具屋や海鮮居酒屋などで魚拓(ぎょたく)を壁に飾っているのを目にしたことがあると思いますが、これは直接魚に墨を塗り紙で押さえて写し取るのが通常です。出土品や貴重な文化財に直接墨を付けることはできないので、画仙紙(がせんし)という特殊な用紙を水で濡らし、モノに密着させてその上から油墨(ゆぼく)をむらなく押さえて写し取る「湿拓法(しったくほう)」が行われます。これだとモノが汚れず確実に実物大の作品が仕上がり、他と比較検討が可能です。
 もっとも、現代はコピー機やスキャナーなど便利な機械があるのですが、縮尺自在なため、大きさの比較には十分注意が必要ですね。
 さて、前置きが長くなりましたが、この拓本技術は埋蔵文化財の研究や保存の分野でも威力を発揮しています。
 例えば遺跡で発掘される中国の鏡には背面に精緻(せいち)な文様が鋳込(いこ)まれていますが、それをスケッチするのは至難の技です。写真を撮っても光線の具合でなかなか鮮明な文様が表現できない場合はこの拓本が便利です。
 図1左は「卑弥呼の鏡」といわれている「三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)」の写真で苅田町の石塚山(いしづかやま)古墳から出土したものですが、なんと細かい文様が描かれていることでしょうか。これを拓本にしたのが図1右です。凹凸のある面の文様を一枚の紙に写し取るのはシワが寄ったり、濃淡が微妙に違ったりと限界もありますが、細部を白と黒のツートンカラーで観察できるため、他の文様との比較が実物大で可能となります。同一の笵(はん/鋳型)で作られた兄弟鏡が愛知県の古墳で出土したことも拓本調査で判明しました。

 

図1 福岡県京都郡苅田町石塚山古墳から出土した三角縁神獣鏡(左)とその拓本(右)(「豊前 石塚山古墳」1996年より転載)
図1 福岡県京都郡苅田町石塚山古墳から出土した三角縁神獣鏡(左)とその拓本(右)(「豊前 石塚山古墳」1996年より転載)

 

 また、小倉城下町の調査では江戸時代の軒瓦(のきがわら)が大量に出土しました。この二つの拓本同士を比較することによって、同じ瓦当(がとう)文様にも微妙なバラエティーがあることや笵に同一のキズやしるしがあることなどを手掛かりに、瓦の生産体制や流通の様子もうかがうことができるのです(図2)。 

 

図2 小倉城と中津城から出土した同笵瓦(「関西近世考古学研究Ⅺ」2003年より転載)
図2 小倉城と中津城から出土した同笵瓦(「関西近世考古学研究Ⅺ」2003年より転載)

 

 その他、複雑な縄文土器の縄目文様や幾何学文様も拓本で図3のように展開させることができます。

 

図3 福岡県北九州市下吉田遺跡から出土した縄文土器(「下吉田遺跡」1985年より転載)
図3 福岡県北九州市下吉田遺跡から出土した縄文土器(「下吉田遺跡」1985年より転載)

 

 年月がたてば色あせてしまう写真と比べ、拓本は墨も変質せず、きちんと保管しておけば後世までそのまま伝えることができる究極の記録保存媒体といえるのではないでしょうか。

 

〈埋蔵文化財の展示案内〉 
~リニューアルオープンしました~
・北九州市立埋蔵文化財センター
 〈小倉北区金田1の1の3 093(582)0941〉
 2009年に小倉南区城野遺跡で見つかった、弥生時代後期に築かれた方形周溝墓(ほうけいしゅうこうぼ)内の箱式石棺2基を移築復元して展示しています。
 実物の石材と真っ赤な朱で敷き詰められた床面を見る絶好の機会です。ぜひご見学ください。
 また、絵画文様のある石棺の小口石や副葬された鉄製品、小壺なども見学できます。

・北九州市を掘る(85) 埋蔵文化財速報展
 『洞海湾の海浜に暮らした人々~山王遺跡第1・2地点の調査から~』
 旧石器~弥生時代の石器や奈良時代の製塩土器、中世の陶磁器など200点を展示。常設展もあり。

【入館料】
 無料 

【開催期間】
 4月23日(日)まで 

【開館時間】
 午前9時~午後5時
 (入館は午後4時30分まで)
 ※毎週月曜日(休日の場合はその翌日)、
 年末年始は休館

・黒崎歴史ふれあい館
 〈八幡西区黒崎3の15の3黒崎駅横コムシティ1F〉
 常設展開催中
 『城下町から宿場町へ~出土品が語る黒崎の歴史と文化~』
 『シュガーロード・発掘物語』

【入館料】
 無料 

【開館時間】
 午前9時~午後5時
 (入館は午後4時30分まで)
 ※年中無休

【このコーナーの次回掲載予定は5月号です】