蓬田やすひろ画 文春文庫『海鳴り』(上)装丁画

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生誕90年記念 藤沢周平展

2017.9月号

文芸hiroba
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北九州市立文学館
学芸員 稲田大貴

 北九州市立文学館では10月28日から、第25回特別企画展「生誕90年記念 藤沢周平展」を開催します。本年は藤沢周平生誕90年、没後20年の節目の年であり、改めて藤沢周平という作家に触れていただく機会になればと思っています。今回は、まず作家・藤沢周平とその作品について、そして本展の展示コンセプトについてご紹介したいと思います。
 藤沢周平は1927(昭和2)年、山形県東田川郡黄金村(現・鶴岡市)の生まれで、結核療養のため53(昭和28)年に上京します。その後、東京の日本食品経済社に業界紙の記者として就職。勤めながら、時代小説を執筆し、71(昭和46)年、「溟(くら)い海」でオール讀物新人賞を受賞、直木賞候補となりました。その後、73(昭和48)年に「暗殺の年輪」で第69回直木賞を受賞します。翌年には退職し、作家専業の道を歩み始めることになります。

蓬田やすひろ画 文春文庫『海鳴り』(上)装丁画


 藤沢作品では、市井の人びとや、下級武士が数多く描かれます。「普通」に生きる人びと、その哀歓を描き出す筆致は多くの人びとの心を捉えます。その舞台として多く設定されているのは、架空の藩「海坂藩(うなさかはん)」です。江戸時代の庄内地方をモデルとしたこの藩の描写には、藤沢周平のふるさとへの愛情が強くにじみ出ています。直木賞受賞作の「暗殺の年輪」、代表作といわれる『蟬しぐれ』も、海坂藩を舞台として書かれた作品です。 
 また、時代小説家という印象の強い藤沢周平ですが、風狂の俳人・小林一茶を主人公にした『一茶』、徳川六、七代将軍に仕えた儒学者・新井白石を書いた『市塵(しじん)』、夭折(ようせつ)の歌人・長塚節(たかし)を書いた『白き瓶(かめ)』など、伝記小説も数多く手がけています。史実と誠実に向き合いながら、その間隙(かんげき)に、作家としての想像力を開放して書かれたこれらの作品には、一時代を一人の人間として生きた人物の心が描かれています。
 本展覧会は、「藤沢周平が生きていたならば、いまの私たちに何を伝えてくれるのか」という問いがテーマであり、藤沢が書いた言葉からメッセージを受け取っていただく試みです。
 展覧会ではまず、「藤沢周平を育てた郷土・鶴岡とその自然」と題し、作家・藤沢周平の内面、根幹を育んだふるさと・鶴岡をご紹介し、作家デビューへと至る道を辿(たど)ります。それから、藤沢作品を「武家もの」「市井もの」「歴史伝記もの」という三つの枠組みでご紹介します。その中で、多くの自筆原稿や創作メモ、作家が愛用した品々を展示いたします。また、書籍化された藤沢作品の装丁画、また今回の展覧会のために墨絵画家の涌井陽一が書き下ろした作品も展示予定です。

涌井陽一画 墨絵「孤剣」


 本展覧会で、今なお多くの読者を魅了する藤沢文学の魅力を感じていただければうれしく思います。



Information
【会場】
 北九州市立文学館

【開催期間】
 10月28日(土)~12月10日(日)
 ※月曜日休館
 ※10月28日(土)の展示室入場は午前10時30分以降

【観覧料】
 一般700円 
 中高生200円 
 小学生100円

【開館時間】
 午前9時30分~午後6時
 (入館は午後5時30分まで)

【お問合せ】
 北九州市立文学館 
 093(571)1505