『伊馬春部作品集』

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文学館文庫⑫『伊馬春部作品集』の紹介

2017.12月号

文芸hiroba
ようこそ文学館へ 
北九州市立文学館
学芸員 小野恵

 

 文学館では、現在入手しづらい北九州ゆかりの作家の作品を収めた文学館文庫を発行しています。第12巻は『伊馬春部(いまはるべ)作品集』(11月1日刊行)です。伊馬春部(本名・髙﨑英雄)は、鞍手郡木屋瀬町(現・八幡西区木屋瀬)に生まれました。鞍手中学校(現・鞍手高等学校)から國學院大學に進み、折口信夫(おりくちしのぶ)(釈迢空/しゃくちょうくう)、金田一京助などに師事します。大学卒業後は、ムーラン・ルージュ新宿座(以下M・Rと表記)、JOAK(現・NHK)などで脚本家、放送作家として活躍。ラジオ、テレビ放送の黎明期(れいめいき)を支えその歴史に名を刻みました。今回は、文庫本に収録した作品をご紹介します。

『伊馬春部作品集』

 

 Ⅰ 脚本、小説 
 「桐の木横町」(1933(昭和8)年9月、M・R初演)は、32(昭和7)年2月からM・Rの文芸部員として脚本を書いていた伊馬春部(当時の筆名は伊馬鵜平)を人気作家に押し上げた作品です。桐の木のある横町に住む職業の異なる5軒の住人たちの日常を描き大ヒットしました。「かげろふは春のけむりです」(34(昭和9)年3月、M・R初演)は、近所同士の2家族が子どもの受験をめぐって巻き起こす騒動を描きます。日常の描写のなかに社会や人間への風刺を織り込み、ウイットに富んだ伊馬の作風は「ムーラン調」と呼ばれ、学生やサラリーマンを中心に人気を博しました。
 ユーモア小説「レヴュウ男爵座」(36(昭和11)年3月)は、劇場「クラゴ・ノンサナミ座」の脚本家・小牧が友人の頼みで、男爵家の「持てあまし者」の次男を役者としてデビューさせようと奮闘する物語。M・Rで活躍した伊馬ならではの笑いと風刺のきいた作品です。
 「夕餉前(ゆうげまえ)」(40(昭和15)年4月13日放送)は、NHKで実験放送された国内初のテレビドラマです。12分間という短い放送時間でしたが、当時の照明の悪事情から、熱さで着ているものが焼け焦げたというエピソードも残ります。
 「屛風(びょうぶ)の女」(52(昭和27)年1月4日放送)は、伊馬のラジオドラマの中でも最高傑作の一つと言われます。51(昭和26)年、折口に同行し金沢市南郊にある鶴来町(現・白山市)の旧家に泊まった折に材を得た作品です。万年筆のセールスマンが、宿の屛風の破れに貼ってあった雑誌の口絵から抜け出てきた女と話し、夢とも現(うつつ)ともつかない体験をするストーリーで、海外でも高く評価されドイツ語などに翻訳されました。
 また、戦後のお茶の間に笑いを届けたラジオドラマ「向う三軒両隣り」を写真資料で紹介します。この作品は、47(昭和22)年7月1日から53(昭和28)年4月10日まで、全1377回、NHKで放送。八住利雄、伊馬春部、北條誠、山本嘉次郎(のち、北村寿夫に交代)が、一週ごとの輪番で脚本を書きました。本書には第1回(プロローグ)台本から、伊馬の書いた「坂東家」の部分を掲載しました。

 Ⅱ 随筆
 「悲劇名詞」、「七顚(てん)八倒」、「ある反省」、「鉄かぶとの頃」、「“ぴのちお”の青春」、「斜陽ノートのこと」は、太宰治との親交の深さを物語る随筆です。その他、恩師折口信夫への追悼として書かれた「身辺のこと二三」、國學院大學時代に親炙(しんしゃ)した金田一京助の穏やかな人となりがうかがわれる「想い出の春風駘蕩(たいとう)」、井伏鱒二との出会いと交流を書いた「朽助以後のこと」など、伊馬が師として尊敬する人々にまつわる随筆を収めました。「土手の見物人」は、伯父阿部王樹らと出かけた帰り道、乗っていた車が土手から転がり落ち大けがを負った出来事を書いています。けがで動けず助けを待つまでの間、土手の上から自分たちを見下ろす人々をカメラに収めたかったとしきりに悔やむ伊馬。友人から「写魔」と呼ばれるほどカメラ好きだったことがうかがわれるエピソードです。
 巻末には、親族で木屋瀬在住の梅本靜一さんによる、伊馬の文学的ルーツや家系(阿部家)をたどった寄稿、『やさしい昭和の時間―劇作家・伊馬春部』の著者桟比呂子さんによる、作品解説を収録しました。
 文庫本は、文学館およびブックセンタークエスト小倉本店で販売しています(税込1000円)。劇作家、放送作家として昭和期を駆け抜けた伊馬春部の作品を、この機会にぜひお手に取って読んでみてください。



Information
北九州市立文学館
北九州市小倉北区城内4の1
093(571)1505

【開館時間】
 午前9時30分〜午後6時
 (入館は午後5時30分まで)

【休館日】
 月曜日、12月29日(金)〜1月3日(水)

【入館料】
 一般200円 
 中高生100円
 小学生50円
 年間パスポート
 一般400円
 中高生200円 
 小学生100円