演劇

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旅する劇団たち

2018.2月号

演劇hiroba
演劇の街は、いま 
大塚恵美子演劇事務所 
代表 おおつかえみこ

 

 「東京で演劇をやろうと思ったことはありますか?」と聞かれることがある。正直、“東京を拠点として”演劇活動をしようと思ったことはない。どちらかといえば、拠点を北九州市に置きながら、いかにして東京を含む他の土地に自分の作品を届けるかに興味があったように思う。
 とはいえ、1986年に劇団に入った当時は、やはり“東京”というのはあこがれの場所だった。しかし、90年代に入ると「地方の時代」というキーワードが登場し、日本の演劇を動かす力が、東京一極から地方へと分散し始める。93年に始まった「北九州演劇祭」では、東京を飛び越した“地方から地方へ”の公演スタイルも多くなった。
 実際、自分のホームでない場所での公演には途方もない“劇団体力”が要求される。演劇祭のような外枠や、何らかの助成金があればまだいいが、それらがない状態で、知らない劇場、知らない観客に自分たちの作品をアピールし、劇場にまで足を運んでもらうには、知恵を絞りまくらねばならない。
 ただ、旅公演には、そんな苦労を上回る達成感がある。生活環境の違う土地の観客は、作品を、そして劇団を育てる。その味を一度知ってしまったらもうホームに甘んじているだけの活動では我慢できなくなるだろう。
 「枝光本町商店街アイアンシアター」は、そういった“地方から地方へ”旅をする劇団の公演が比較的多く上演される劇場だ。去年の11月、12月も、数本の興味深い、地方劇団の公演が行われた。
 まずは「オトリヨセ企画」の『愛と疎遠』(作・出演:杉山絵理・中西あい・乗松薫/11月25日・26日)だ。劇団ホームページによると、この「オトリヨセ企画」とは名古屋、広島、北九州と違う地域に住んでいるダンサー3人が「ダンサーの地元やゆかりのある土地に、お茶とご当地お菓子でお客さまと交流しながらダンスを届けようと始めた企画」だという。まさに“その土地の空気をたくさん吸い込む”姿勢で表現活動を行っているように見える。
 12月には、愛媛を拠点に活動する「世界劇団」が『さらばコスモス』『鼓動の壷(つぼ)』(作・演出:本坊由華子/12月2日・3日)を上演した。松山、広島、北九州を回る「二本立て3都市ツアー」である。

世界劇団 『さらばコスモス』『鼓動の壷』チラシ

 

 この「世界劇団」は、短編演劇祭「劇王」の四国大会と中国大会でそれぞれ一位を取った経験もある実力派。世界を毒のあるメスで切り刻んで、俳優のエネルギッシュな動きとセリフ回しで再構築する、どこか80年代の小劇場演劇を彷彿(ほうふつ)とさせるような作品展開が魅力だ。
 この劇団は、公演日の12月2日が、門司港で行われている「海峡演劇祭」参加の、福岡市を拠点とする劇団「ぐにゃり」と同じ公演日ということで“ハシゴキャンペーン”として、JRスペースワールド駅と門司港駅間の料金片道分をキャッシュバックするという企画を実施した。フットワークの軽さと強い劇団体力を感じる。北九州で、こういった他地域の劇団同士の交流が行われるのを目撃できるのはとても喜ばしいことだ。
 アイアンシアターでは、さらに、躍動的で魅力的なダンスユニット「プロジェクト大山」が『大山曼陀羅―オオヤマンダラ―』(構成・演出・振付:古家優里/12月16日・17日)を上演した。愛知、青森、福岡を巡るツアーの公演場所として、北九州市が選ばれたことが喜ばしい。

プロジェクト大山ツアー公演 『大山曼陀羅―オオヤマンダラ―』チラシ

 

 ただ、実際問題、どの劇団も観客動員には苦労しているようだ。見知らぬ劇団の見知らぬ演劇を観(み)るために劇場に足を運ぶのは確かにハードルが高いだろう。しかし、そこには思わぬ良い出会いがあるかもしれない。数ある街から北九州市という場所を選んだ表現者に会いに劇場に行くという冒険も“劇的”かと思うのだが、いかがだろうか。