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火野葦平(ひのあしへい)の“エール”

2021年1・2月号

文学

2020年12月25日

文芸hiroba
ようこそ文学館へ
北九州市立文学館
学芸員 小野芳美

 NHKの朝の連続テレビ小説「エール」をご覧になっていた方は、火野葦平をモデルにした登場人物にお気付きだったでしょうか。10月半ばに放送された、太平洋戦争末期、主人公・古山裕一のビルマ慰問のくだりで登場した作家・水野伸平でした。
 火野葦平は1944(昭和19)年、作曲家の古関裕而、画家の向井潤吉と共に報道班員として従軍命令を受け、ビルマ・インド国境地帯に赴きます。古関・向井はドラマ「エール」の古山と中井潤一のモデルです。
 3人はドラマで描かれたのと同様に、ラングーンで数日過ごします。劇中で水野が作詞、古山が作曲していた「ビルマ派遣軍の歌」は、実際に葦平と古関が手掛けたものでした。
 葦平と向井はさらに最前線・インパールまで進みます。苛烈で悲惨な状況を葦平はペンで伝えようとしますが、戦況をリアルに描写することは防諜(ぼうちょう)を理由に阻まれてしまいます。戦後の葦平は戦犯作家とのレッテルを貼られ、やはり自由に執筆することができなくなるのですが、古関・向井との「戦友」の絆は戦後も続きます。
 古関と葦平の縁の跡は、私たちの身近にも残されています。戦後、学制改革を受けて日本中に新しい校歌が生まれ、葦平も数多くの校歌の作詞をしました。北九州市内では修多羅小学校・熊西小学校・浜町小学校(当時)・若松小学校(当時)・八幡工業高校・戸畑高校・若松高校、ほかに福岡県内の5校を手掛けました。その全てを古関裕而が作曲しています。

詩と歌のノート

詩と歌のノート

 なかでも戸畑高校は難産したようです。戦後共学化され、旧制戸畑中学の校歌のままではそぐわないとして葦平に依頼したところ快諾、しかも作曲をかの人気作曲家・古関裕而に頼んでくれるとも言うので、学校関係者は「日本一の校歌生るる日近し」と大喜びします。葦平は2度も足を運び、沿革や校訓、校風、環境や生徒の活動の取材まで行いました。
 しかし、思いのほか苦吟しました。単純に山や川を詠みこめば良いわけではないのだと、「小説だとたとえ愚作でも非難は私一人が受ければいいんだけれど、校歌はそうはいかぬ。生徒の心の琴線にふれ、それが末永く愛唱されねばならぬ。母校の校歌は一生忘られない[ママ]ものだが、それの良否がその人の一生に影響を与える」と述べています(「戸畑高等学校『創立五十年史』」1985年10月)。
 ちょうど葦平は公職追放が解け、新聞連載した「赤道祭」、「花と龍(りゅう)」と立て続けに人気を博し、再び流行作家として第一線に復帰した頃でした。執筆依頼が多く忙しかったとはいえ、なんと完成まで3年以上もかかり、待たされた学校関係者は非常にやきもきしたようです。詩の完成後、すぐに古関も曲を付けます。
 新しい校歌の印象を、生徒の一人はこう書き残しています。「それまでは(略)質実剛健という感じの歌で(略)男子校のイメージぴったりであった。しかし時は移り男女共学の新制高校のために今の校歌ができた。火野葦平さんの作詞によるものである。はじめは何となく女性的な感じをうけたが、卒業する頃には違和感も消えていたように思う。自主と調和の校訓(略)をごく自然に盛り込んであった」(同前)。
 若松と東京の両方に書斎を構え、まだ珍しかった飛行機で往復しながら執筆していた多忙な葦平でしたが、校歌のお披露目会に足を運んだ記録が残っています。葦平と古関のコンビは、戸畑高校では応援歌も手掛けています。
 現在文学館では火野葦平展を開催中です。葦平の生涯を豊富な資料と共にご紹介しています。校歌の関連では、熊西小学校の構想メモを展示しています。古関・向井と同行した際の従軍手帳や、インパールでの風景を向井が描いた油彩画「ロクタク湖白雨」なども、ぜひ併せてご覧ください。
 校歌は、在校生が思いがけず人生で最初に出会う葦平の「作品」ではないでしょうか。戦後、新時代を担う若い人たちに贈られた葦平の“エール”をぜひ感じ取ってください。

『没後60年 火野葦平展―レッテルはかなしからずや―』チラシ

『没後60年 火野葦平展―レッテルはかなしからずや―』チラシ

Information
没後60年 火野葦平展―レッテルはかなしからずや―

【会期】
 開催中~2月14日(日)
【開館時間】
 午前9時30分~午後6時(最終入館は午後5時30分まで)
【休館日】
 月曜日(祝日の場合、翌日休館) 年末年始(12月29日~1月3日)
【入館料】
 一般500(400)円 
 中高生120(90)円 
 小学生60(40)円
 ※( )内は30人以上の団体料金
 ※北九州市在住の65歳以上の方は2割減免
 ※障害者手帳等を提示の方は無料
【お問合せ】
 北九州市立文学館 
 093(571)1505
【ホームページ】
 https://www.kitakyushucity-bungakukan.jp/

※新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、施設の臨時休館や、催しの中止・延期となる場合がございます。最新の情報は各施設のホームページをご確認ください


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